Philosophy

「物語」のある​風景​を守​りたい​

時を経た「物語のある風景​を守​る」、それが、私たち New Heritage の願いであり理念 です。

文化財や景観条例で保全されるような「格」はなくとも、失ってはいけない風景や建築​が、まだ日本には沢山あります。

地方には、日本昔ばなしなどで私たちに刷り込まれていた、文化的アイデンティティの拠り所となるような「風景」があります。帰る『田舎』や『山荘』をもったことがない人にとっても、地方の美しい風景には、消費社会のそれとは違う、素朴で健やかな心を思い出させる力があります

私たちの守れる風景は、ほんの少しです。それでも、その場所で暮らしてきた人、里帰りした人、訪れた人、また新しい地へ旅立つ人が、忙しい毎日の中、思い出すと心休まる、そんな風景​を少しでも守っていきたい​、そう思っています

自然環境保護や伝統文化保全などではなく、この柔らかな懐かしい気持ちを感じる場所や風景が継続して欲しい。思い出して暖かい気持ちになる風景がこの先もあってほしい。好きな風景が、ただそこにあってほしい。

New Heritage は、そんな希望からうまれ、文化的風景の新しい利用形態や社会システムを実行しています。

デザイン基準:懐かしさを守る

スタイリッシュにリノベーションされた町屋や古民家を見て、「かっこいいけど別物になってしまった」、「古い雰囲気があったのにもったいない」、そう寂しく感じてしまったことはありませんか?

海外のインテリアデザイナーが、京都で宿泊する場所を探して困惑していました。全て同じようにモダンにリノベされていて、何でもない京町屋がないのです。彼は、「あんなに素朴で美しいものを、何でこんなに変えてしまうんだ?」と悲しげでした。

英語で patina という言葉があります。日本語では、経年変化と訳されてしまいますが、年月が経つうちにでる劣化ではなく、経年変化で生まれる味わいをパティナと言います。古い建物にある、せっかくの味である patina を取り除いてしまうのは、便利さや快適さと引き換えに価値を取り除くことです。

例えば、囲炉裏の煙で灰色に燻された漆喰の壁を真っ白の壁にしてしまったり、味のある土間を新しいタイルにしてしまったりします。モダンにしすぎると、古いものが新しいもののお飾りになってしまいます。これでは、古材を使った新築のようなもので、「思い出の風景を守る」という観点からは、悲しいことです。

ただ、これから活用される建物や風景は博物館ではないので、使用できるものであることが大前提にあります。古さを保ちながらも、快適に過ごせるように手を入れます。ここのバランスがとても難しいので、最善のバランスを追求して、いつも悩んでいます。

古民家などのビンテージ建築の多くは、宿泊施設として活用されています。時を刻んできたものには、なんとも言えない「良さ」があります。その「良さ」を守りたいときに、実際に何を守ればいいのか?いつも私たちは悩んでいます。それは、古いものだけが醸し出す「懐かしい気持ち」だという答えにたどり着きました。

 「懐かしい」ものは、自分のそばにはないけれど、近くにいたいものだそうです。主語は、昔の健気な自分かもしれません。元気な頃の両親やおじいちゃん、おばあちゃんかもしれません。親しんだ美しい風景を思い出すと、人は過去を思い癒され、未来を描き励まされます。社会の癒しの場所として「思い出の風景」を守っていきます。思い出の風景を見たときに感じる、暖かいような優しいような恋しいような「懐かしい気持ち」を保全することを基準に、リノベーションや農村活性化を進めています。

New Heritage は、スタイリッシュさよりも、空間が時を共に育んできた「懐かしさ」を優先して守るポリシーで日々奮闘しながら、古い風景や建物がさらに素敵に時を刻んでくれるように、懐かしい雰囲気をさらに育てることを目標にしています。

 

進行中の計画

 良い風景には良いコミュニティが集まり廃れない。そう考えています。もはや自然現象となってしまった地方の過疎化と戦うため、新しい風を吹き込めるように、現在、4つの計画を実行しています。

「里山計画」

Izu Valley House 南伊豆

美しい谷の農地にある、明治20年代に建てられた、大地主 永田家の「鴻乃家」さんという屋号のお屋敷を農的暮らしが体験できる宿にしました。地域経済の小さなエンジンとなるよう、エコツーリズムや農村体験などの「なりい」をつくり、人が集まる風景をつくります。鴻乃家は、美しい棚田に囲まれていましたが、周辺の農地はソーラーパネル用地に特化した不動産業者へ渡りました。ソーラーパネル用地として 売るために、歴史を刻んできた石垣は壊され、砂利で造成されました。私たちは、農的風景を守るべく、この用地を買い取り、農的風景を再生する計画を実行中です。

「ビンテージ別荘計画」

Izu Cliff House 南伊豆

 1960年代に構想され1970年に完成した、ガラス張りのモダニスト建築を廃墟の状態から再生しました。バケーションレンタルとして生まれ変わり、多くの人の思い出の場所となっています。

Tatehata House 北軽井沢

 1968年に完成した、ミッドセンチュリー建築を再生しました。半世紀の間、大切にされてきた文化的で上質な別荘空間として生まれ変わりました。